レトロな空間も新鮮。料理やスイーツが充実の秦野の人気カフェ

丹沢の麓、水に恵まれた秦野市には、美味しいと評判のお店がいくつもあります。今回は、秦野市内の小田急線「渋沢駅」と「秦野駅」からアクセスする2つのカフェをご紹介します。表丹沢の山々の玄関口となる大倉近くにオープンした「カフェ グレース 蔵」と、地元の老若男女がこぞって通う古参の「Monterey(モントレー)」です。どちらも洋食や甘味も楽しめる人気のお店です。

濃いコーヒーが癖になる。手作り料理とケーキも評判「カフェ グレース 蔵」

「渋沢駅」改札を出て右手に進むと、さっそく表丹沢や大山の迫力のある山容が出迎えてくれます。この北口には、表丹沢の主峰、塔ノ岳や鍋割山などの登山口がある「大倉行」のバス乗り場があります。このバスに乗って、コーヒーが美味しいと評判のお店を訪れましょう。

「渋沢駅北口」から約7分、「大倉入口」で下車、歩いて4分ほどで到着するのが「カフェ グレース 蔵」です。塔ノ岳など表丹沢の登山口や県立秦野戸川公園がある大倉へ向かう緩やかな坂道の途中、右手にある小さな看板が目印の隠れ家的なお店です。

軒先にかけられた大きな簾(すだれ)が、丹沢から吹く風で気持ちよく揺れています。中央の引き戸から入ると、外観とは異なる別世界の空間が広がり、白壁の店内には静かにジャズが流れています。テーブル席が設けられ、さりげなく展示されているアンティークやオブジェも興味をそそられます。

古い知人を介して、この場所、この建物とのご縁に恵まれたというのは、店主の奥田さんです。40年ほど前に、秦野駅周辺でコーヒーとケーキを提供するカフェの経営を皮切りに、数店舗の飲食店を経営した後、信州へ移住。20年ぶりに秦野へ戻り、天井から壁、床、厨房も含めた内装のほとんどを、ほぼDIYで仕上げてお店を開きました。2022年夏に開店し、以来お一人で切り盛りされていらっしゃいます。

奥田さん自ら丁寧に淹れたコーヒーは、古くからの馴染のお客さまを呼び寄せ、さらには新しいお客さまの来店にも繋がっているようです。そのコーヒーと一緒に、実は食事を楽しみに来店される方が多いのだそう。食事メニューは常時3~4品提供しており、いずれもコーヒー又は紅茶のドリンク付きです。看板メニューの「ハンバーグ」は、ご覧のとおりのボリューム感。牛肉の比率の高い合挽肉のハンバーグには、大根おろしがのり、付け合わせの季節野菜やきのこのソテーも風味豊か。サラダとライスもついて、食べ応えがあり、男性のお客さまのオーダーが多いのも頷けます。

カフェの域を超えた料理に感心していると、「秦野で洋食と言えば、という名店を営む先輩シェフのもと、レシピを作り上げています。彼の細かな指導が入るんです」と、はにかみながら教えてくださいました。

「ラタトゥイユチーズトースト」は、女性にも人気の一品。季節の野菜をたっぷり使うラタトゥイユも、言わずもがな奥田さんの手作り。たっぷりのチーズのコクと塩味が、トマトの酸味と旨味たっぷりのラタトゥイユによく合い、山食パンとの相性も抜群です。登山やハイキング帰りのおやつにもぴったりの一品と言えそうです。

雰囲気のある店内で、寛ぎながら料理やコーヒーを楽しむのも良いですが、店頭の広い軒先にもリラックスできる空間が広がっています。店舗の奥には水無川があり、丹沢から吹いてくる風が心地よく流れてゆきます。

この風の通り道にある建物の内装や軒下の空間をはじめ、お料理も、どことなく「田舎風」で、肩の力が抜けていながらも洒落ています。人生のいろいろな経験を重ねた奥田さんだからこそ、このスローな空気感を醸せるのかも知れないですね。しばし日常から離れたひと時を愉しみましょう。

「基本的に、普段はネルドリップでコーヒーを淹れてます。忙しい時や、お時間が限られているお客さまには、ペーパードリップで提供させてもらってます」と、20年間のブランクを経て、再び秦野でカフェを開いた奥田さんが言います。コーヒーを淹れる手慣れた所作や、料理の手際のよさは、長年のブランクを全く感じさせません。

ほぼ毎日、2種類のケーキやタルトもメニューに並びます。もちろん、お菓子も奥田さん自らが作っているのだそう。最初に秦野でコーヒーショップを開いた頃から、ご自身でケーキも焼いていたそうで、お菓子作りもお手のものだとか。

定番という真っ白い佇まいのレアチーズケーキをいただきます。フォークを入れた瞬間に、その柔らかさに驚き、そのまま口に運ぶと、すーっと消えてゆくような食感と、想像を超えたクリームチーズの濃厚な風味にしばし悶絶。レアチーズケーキのソリッドな食感とは異なる、繊細な口どけ感に、思わず嬉しさがこみ上げてきます。

季節限定という「かぼちゃケーキ」ももちろん手作り。かぼちゃのカスタードクリームの下に、栗の実も入った濃厚な栗ソースを敷いて焼いているのだそう。甘さだけではない、かぼちゃと栗の旨味をしっかりと感じます。

しっかりと甘く、ポーションも大きめのケーキには、奥田さんが丁寧に淹れたホットコーヒーがよく合います。琥珀色のコーヒーは、濃いめではありますが、香りよく苦さはありません。ブレンド2種のほか、ガテマラ、マンデリン、モカから選ぶことができます。

秦野戸川公園散策や表丹沢登山の帰りなど、秦野周辺でのレジャーと合わせてカフェ グレース 蔵を訪れてみてはいかがでしょうか。カフェの域を超えた満足感のある洋食メニューと繊細なケーキにぴったりの濃厚なコーヒーを用意して、店主の奥田さんが表丹沢の麓で待っています。

※店内8席、店外8席と席数が限られています。混雑時にはお時間がかかることご了承ください。
※お支払いは現金のみ。クレジットカードや電子マネーは使用できません。
※掲載情報は取材日時点(2025年9月)のものです。

INFORMATION

カフェ グレース 蔵

表丹沢の玄関口となる大倉に続く緩やかな坂道の途中にある隠れ家的カフェ。濃く淹れたコーヒーが評判のお店です。店主手作りのハンバーグや焼きカレー、トマトソーススパゲティなどの食事メニューは味わいが支持され、自家製ケーキも人気です。


地元で愛されて半世紀超。昔懐かしい洋食メニューと炭火焙煎珈琲が評判の老舗喫茶「Monterey(モントレー)」

丹沢の麓、秦野の街の中心部、本町四ツ角に店を構えるのが、1972年創業の喫茶店「Monterey(モントレー)」です。秦野駅北口からは徒歩9分ほどで到着するお店の目印は、コーヒーミルのオブジェと頬杖をつく女性が描かれた赤い看板です。評判の洋食やコーヒーを求めて、昼時は行列ができるほどの人気ぶりですが、昼から夜までの通し営業のため、午後は比較的ゆっくりと食事や喫茶ができる、街の憩いの場所となっています。

木製の調度品で統一され、温かみのある暖色系の照明が落ちついた雰囲気の店内。歴史の長さを感じさせつつ、隅々まで綺麗に磨き上げられた居心地のよい空間が広がっています。
テーブル席とカウンター席があるので、一人でもグループでも入りやすく、リラックスした時間を過ごすことができます。

山小屋のランタンのようなペンダントライト、西洋画やポスター、コーヒーに因んだ工芸品などが飾られたインテリアは、昭和のジャズ喫茶にタイムスリップしたような懐かしさを感じます。

店内中央に置かれた大きなガラスのケースには、アンティークの陶器製ピエロ人形が所狭しと並べられています。このケース内のディスプレイは、お正月、ひな祭り、端午の節句、クリスマスなど季節のイベントに合わせて模様替えされるので、それを毎回楽しみに来店されるお客さまも多いそうです。

フードメニューの一番人気は、ハンバーグとスパゲッティがワンプレートで楽しめる「ハンバーグスパゲッティ」(ミニサラダ付き)とのこと。スパゲッティは塩味かケチャップ味か選ぶことができますが、大半のお客さまが注文するのはケチャップ味で、ハンバーグとの盛り合わせ、通称「ケチャバーグ」の呼び名が、お客さまの間にも定着しているのだそうです。

モチモチ感のあるスパゲッティは、約2.0mmという太めを使用し、茹で上げてから一晩冷蔵庫に寝かせて使うのがモントレー流です。ハム、玉ねぎ、マッシュルームと一緒にケチャップで炒める「昔ながらのナポリタン」で、口当たりは柔らかく、食べ応えもあります。粉チーズをたっぷりとかけてどうぞ!

ハンバーグは、合い挽き肉(牛50:豚50)と牛乳、パン粉を毎朝手ごねで仕込み、注文が入ってから、一つずつ丁寧に成型し、200度のオーブンでふっくらジューシーに焼き上げたもの。サラっとした自家製デミグラスソースが、少し粗目に挽かれた肉の存在感を引き立て、口いっぱいに旨味が溢れます。

ボリュームのある盛り合わせですが、ケチャップ味もデミグラスソースもあっさりとどこか家庭的な優しい味わいです。重さを感じさせず、ペロリといただくことができ、世代を問わず、このお皿を目当てに頻繁に来店されるというのも頷けます。

厚切りの食パンからとろけ落ちるチーズが食欲をそそる「ミックスグラタン」もケチャバーグと並ぶ人気メニューとのこと。トースト用のパンの中身をくりぬき、中にグラタンの具を詰めて焼いた、いわゆるパングラタンです。
モントレーでは半斤のパンを使い、中に茹でたスパゲッティを詰めてから、海老、イカ、あさり、ベーコンなどが入った温かいホワイトソースを流し込み、上にチーズをのせてこんがりと焼いてあります。
熱々のパンにザクっとナイフを入れ、フォークで中の具を「掘り出し」、パンを崩しながらいただきます。クリーミーなソースに合う2種類のタバスコ(レッドペッパー、ハラペーニョ)をかけて、味変して食べるのもオススメです。
この他に、カレー、スパゲッティ、ピラフ、ピザ、サンドイッチなど喫茶店ならではのフードメニューが豊富に揃っており、すべてドリンク(コーヒーかレモンティー)を付けたセットにすることができます。

珈琲は炭火焙煎専門のロースターから仕入れた新鮮な豆を使用。熟練の職人が備長炭で直火焙煎した豆の豊かなコクと香り、まろやかな味わいが特徴です。オリジナルブレンドはハンドドリップで、ストレートはサイフォンで淹れたものがサーブされます。
また、器にもこだわりがあり、ホットコーヒーにはマイセンやミントン、オークラなど高級ブランドのカップが使われています。アイスコーヒーは熱伝導率の高いピューター(錫合金)のマグカップで提供されるので、よく冷えたままの状態でコーヒーを楽しむことができます。

「フルーツパフェ」もお店自慢の一品で、フルーツはマスターのお兄さまが営む隣接する果物店から仕入れたフレッシュなものを使っているそうです。メロンソーダのかかったアイスクリームの上に、この日はなんと10種類!の果物(メロン、いちご、オレンジ、バナナ、スイカ、キウイ、プラム、グレープフルーツ、パイナップル、さくらんぼ)がトッピングされており、目も舌も大満足のパフェでした。
デザートはパフェの他に、自家製のケーキやプリンをはじめ、寒天から手作りのみつ豆など20種類ほどあり、充実のラインアップとなっています。

マスターの榊さんは三重県のご出身。18歳から神戸、大阪、名古屋の洋食店で料理の修行を積み、厚木のレストラン勤務を経て、1972年、秦野に洋食メニューが豊富な喫茶店Montereyをオープン。料理人としての経験と技術をいかした榊さんの料理と美味しいコーヒーは、たちまち評判となり、街の人気店となりました。
店名の「Monterey」とはジャズ・フェスで有名な米国カリフォルニア州の町の名前から。ジャズ好きで自らドラムの演奏もするという、マスターのお兄さまが命名されたそうです。

お店は、料理、デザート、ドリンクを一手に引き受けるマスターの榊さんとそれをサポートする息子さん、接客を担当する夫人の3名で営業されています。
「うちは『個人店』だから、いろいろと工夫しながらやっていますよ」と語る榊さん。職人肌の榊さんがつくる本格的な料理の数々、アート感覚に溢れたインテリア、季節ごとに変わるガラスケースのディスプレイなど、お客さまに喜んでいただくことを第一に考え、また、ご自身やご家族も楽しみながらお店を切り盛りされていることが、お客さまに永く愛され続ける理由なのかもしれません。

今では、地元だけでなく、レトロな店の佇まいと懐かしい洋食メニューの魅力を聞きつけ、都内や遠方からのお客さまもたくさんいらっしゃるという「Monterey」。秦野にいらした際は、老舗喫茶店ならではの趣と懐かしい洋食メニューを味わってみてはいかがでしょう。

※掲載情報は取材日時点(2025年8月)のものです。
※お支払いは現金のみ。クレジットカードや電子マネーは使用できません。

INFORMATION

Monterey(モントレー)

秦野周辺のお客さまに愛されて半世紀超。レトロな佇まいと昔ながらの洋食メニューが豊富な老舗喫茶店です。洋食店で腕を磨いたマスターがつくる「ハンバーグスパゲッティ」や「ミックスグラタン」が、お店の看板メニュー。新鮮なフルーツがたっぷりトッピングされたパフェなど、デザートも充実しています。夜までの通し営業で、昭和にタイムスリップしたようなインテリアを楽しみながら、ゆったりと食事やコーヒーを楽しむことができます。