あじさいの名所 飯山観音 長谷寺・白山ハイキングと刺身が評判の洋食店を訪れる半日旅

厚木市北部、緑豊かな山あいに広がる飯山エリア。温泉郷としても知られるこの地域で、本格的な夏の訪れを前に楽しみたいのが、涼やかな色合いのあじさいです。今回は、色とりどりのあじさいが参拝客を迎える「飯山観音 長谷寺」と、活け締めの刺身や洋食などバラエティに富んだメニューが揃う「魚と洋食のお店 ポワレ」を訪ねる散策コースをご紹介します。
初夏を告げるあじさいに彩られた開山1300年を迎える古刹「飯山観音 長谷寺」

本厚木駅北口のバス乗り場から、「上飯山行」や「宮ヶ瀬行」のバスに乗って20分ほど。「飯山観音前」のバス停から飯山観音入口の交差点へ、鮮やかな朱塗りが目を引く小鮎川に架かる庫裡(くり)橋を渡って、緑に包まれた遊歩道を歩くこと約10分。「飯山観音 長谷寺(ちょうこくじ)」の山門が見えてきます。門をくぐった先の石段脇には、ちょうど見頃を迎えたあじさいが咲き誇り、まるで参拝者をやさしく迎え入れてくれているようです。


「飯山観音 長谷寺」が創建されたのは725年、奈良時代の高僧・行基によるものと伝えられています。そして平安時代初期の807年には、弘法大師・空海がこの地を訪れて教えを広めたことを機に、当時の領主である飯山権太夫が伽藍を建立しました。周囲の自然に溶け込む凛とした佇まいは、「かながわ景勝50選」にも選ばれるほど。坂東三十三観音霊場の第六番札所としても知られ、今なお多くの巡礼者が足を運びます。
石段を上っていくと、目の前にひときわ立派な山門が姿を現しました。2020年に大規模改修を終えた仁王門です。真新しい印象を受けますが、敷居や柱には創建当時の材木がそのまま使われており、継ぎ木をして丁寧に受け継がれています。その仁王門をくぐったら、観音堂(本堂)まではあとひと息です。
石段を上り終えると、まず目に飛び込んでくるのは色とりどりのあじさいが浮かべられた龍の手水舎。これは「花手水(はなちょうず)」と呼ばれるもので、手水舎に季節の花々を浮かべて彩る、近年人気のあるおもてなしのスタイルです。こちらのあじさいは毎朝、花がしおれていないかチェックをして、しおれてきたものがあれば境内に咲いているものと入れ替えるのだとか。参拝客の心をふわりとほどいてくれる、この季節ならではのやさしいおもてなしです。


広々とした境内を歩いていると、ふと視線の先に青や紫のあじさいが色を添えているのに気づきます。ところどころに咲くみずみずしい花々が、まもなく本格的な夏が始まることをそっと知らせてくれています。

鎌倉幕府を開いた源頼朝の命により、家臣の秋田城介義景が建立したと伝えられる観音堂にたどり着きました。堂内には、行基が自らの手で彫ったとされる胎内仏が納められた「十一面観世音菩薩」がひっそりと祀られています。普段は仏像を安置する仏具である一間厨子(いっけんずし)の扉に守られ、年に3回の開帳日にしか直接拝むことはできませんが、今年(2025年)は開山1300年という大きな節目の年に当たるため、4月、5月、11月、12月で計16回にわたり、本尊の特別開帳が行われています。

また、開山1300年を記念して頒布されている切り絵御朱印も見逃せません。満開の桜に包まれた観音堂、石灯籠が並ぶ参道、そして堂々たる仁王像の姿が繊細な切り絵で表現されていて、その細やかな手仕事に感嘆の声が出ます。ちなみに、丸い形には人と人との「縁」、そして「円」をかけているのだとか。授与される際には、特製のクリアファイルに挟んでいただけるのもうれしい心配りです。


「飯山観音 長谷寺」の魅力は、あじさいの季節だけにとどまりません。春には山門や境内を桜が覆い、秋になると境内の木々が紅く色づきます。季節ごとに異なる表情を見せてくれるからこそ、何度も訪れたくなるのかもしれません。

参拝を終えたあとは、白山の山頂にある「白山展望台」まで足を伸ばしてみるのもおすすめです。標高284メートルと比較的登りやすく、観音堂の左手からハイキングコースに入ることができます。


展望台へのルートは2通り。ひとつは女坂と呼ばれる、ゆるやかな坂道のコース。自然を楽しみながらゆっくり歩けば、20〜25分ほどで山頂に到着します。もうひとつは、階段が延々と続く男坂。体力に自信があれば、こちらを通って15分ほどで登り切ることができます。どちらのルートを選ぶにせよ、雨上がりなど湿気の多いタイミングだとヤマビルが出ることもあるため、虫よけスプレーの使用など、入山前にしっかり対策をとることが大切です。
今回は無理なく歩けるよう、女坂を選んで出発。入口にはイノシシ避けのフェンス扉が設置されているので、通過後は忘れずに閉めましょう。木々に囲まれた山道を黙々と歩くうちに、いつしか心身ともに元気になっていくような、清々しい気持ちに包まれます。


展望台にたどり着くと、眼前に広がるのは雄大なパノラマ。手前には厚木市街が広がり、空気の澄んだ日だと横浜ランドマークタワーや新宿の高層ビル群、さらには東京スカイツリーまで望めることも。この日は少し霞がかかっていたものの、それでも高台ならではの開放感は格別。展望台の下にはベンチも設けられているので、景色を楽しみながら一息ついて、心地よい余韻を感じながら、男坂を通って下山します。

ふたたび「飯山観音 長谷寺」へ戻り、参道を通って石段を下りた先で、のんびりと草をはむヤギの「すずちゃん」に出会いました。このお寺のマスコット的存在で、ゆったりとした動きは眺めているだけで自然と笑みがこぼれます。日によって居場所が違うそうなので、姿を見かけたらラッキー。お参りの最後に心が和みました。
INFORMATION
飯山観音長谷寺のあじさいは毎年6月頃が見頃とされています。
開花状況は厚木市観光協会「あつぎ花旅」で確認することができます。
漁港で仕入れる鮮度抜群の魚とフレンチの技が光るランチメニューが評判の「魚と洋食のお店 ポワレ」

たくさん歩いたあとには、ボリュームたっぷりのランチでひと息つくのはいかがでしょうか。
「魚と洋食のお店 ポワレ」は「飯山観音前」バス停のひとつ隣にある「尼寺(にんじ)」を下車したら1分ほど、また「飯山観音 長谷寺」からだと歩いて約20分で到着します。黄色と緑のカラフルな外観が目印のこの店は、気取らない雰囲気ながら確かな味を提供してくれる、和食と洋食両方のメニューが揃うレストランです。


かつて本厚木駅南口で「鯛将」という名のレストランなど、30年以上にわたって厚木の地で店を構えていた佐々木さんご夫妻。約20年前に介護のため熊本へ移り住み、そこで再び飲食店を開きました。 そして2年前、ふたたび厚木に戻った際、思いがけず現在の店舗と出会ったといいます。
「最初はもう店をやるつもりはなかったんです。ただ、厚木で店をやっていた頃から毎年注文をいただいているおせち料理を作るための調理場が必要で……。場所を探していたら、たまたまここを見つけて」。佐々木さんが見つけたのは、かつて小料理屋として使われていた建物でした。ただ、広さは十分ながら、長年使われていなかったため店内は荒れ放題。それから約1カ月半かけて、床も壁もすべて自らの手で仕上げたといいます。「もともとDIYが好きだったから」と佐々木さんはさらりと話しますが、料理だけでなく内装までこなしてしまう手腕に驚きました。
季節の魚や野菜をふんだんに使った料理は、旬に応じて内容が変わるのも「ポワレ」の魅力。そんな中で、1年を通して提供されている定番メニューが「刺身盛り合わせ」です。取材時はメジマグロ、ふぐ、ブリ、金目鯛、こしょう鯛の5種が美しく並んでいました。

まず圧倒されるのはそのボリューム。どの切り身も分厚く、食べごたえ十分で、思わず「これは2人前ですか?」と聞いてしまったほど。口に運べば、ぷりっとした弾力や脂ののりなど、それぞれの魚の個性がはっきりと感じられ、食べ比べする楽しさも味わえます。
「厚く切るのは、魚そのものの食感をしっかり味わってほしいから。大きな魚なら、そのサイズに見合うだけの厚みで出したいんです」と、佐々木さんははにかみながら教えてくれました。
魚へのこだわりは、定休日である火曜日にも表れており、佐々木さんは深夜2時に起床し、小田原漁港まで自ら足を運んで仕入れを行っているのです。
日本三大深湾のひとつに数えられる相模湾に面した小田原漁港は、豊富な種類の魚介が水揚げされる場所。市場で活け締めされた鮮魚を使っているため、鮮度は折り紙付きです。ときには食卓にはめったにのぼらないような、珍しい魚を仕入れることもあるのだとか。鮮度と質に妥協しないその姿勢が、料理にしっかりと表れています。
刺身は盛り合わせのほか、海鮮丼としても提供されていますが、どちらも人気が高く、週末を迎える前に売り切れてしまうこともしばしば。確実に味わいたいなら、定休日明けの水曜か木曜の来店が狙い目です。


魚料理だけでなく、肉料理もおいしいと評判の「ポワレ」。魚も肉も両方楽しみたい方には、「ポワレスペシャルフルコース」がおすすめです。
この日のメインは、伊豆産の新鮮な鹿肉を使ったシチューと、魚のムニエルの2種。赤ワインでじっくり煮込まれた鹿肉のシチューは、濃厚な旨味がぎゅっと詰まった一品です。柔らかいながらも絶妙な歯ごたえを残していて、噛むほどに滋味深い味が口の中に広がります。ムニエルもまた美味。カリッと香ばしく焼き上げられた魚の皮目に、口の中でほどける柔らかな身、そして軽やかなバジルソースの香りと彩り豊かな野菜の付け合わせ。それぞれが丁寧に火を入れられ、素材の味を引き立てています。
セットで提供される自家製パンは、佐々木さんの夫人が担当。営業終了後に3種類を焼き上げるそうですが、繁忙期には深夜までかかることもあるとか。外側はパリッ、中はしっとりのパンはコース料理の名脇役といえるでしょう。

寡黙ながら、料理の話になると目を輝かせる佐々木さん。洋食のシェフとしてキャリアをスタートさせ、割烹料理店で先輩に魚の扱いを一から学んだといいます。ふぐやすっぽんの調理も得意で、合格が難しいとされる神奈川県のふぐ包丁師の資格にも一発合格。長年にわたって食と真摯に向き合ってきた、その誠実な姿勢と飽くなき探究心が、「ポワレ」の料理一つひとつににじみ出ています。
ディナーは完全予約制。ふぐ、すっぽん、あんこうといった、ランチとはひと味違う贅沢なコース料理も楽しめます。
「飯山観音 長谷寺」への参拝や、白山へのハイキングのあとに。自然豊かな飯山の風景とともに、和とフレンチが織りなすスペシャルな料理を味わってみてはいかがでしょうか。
※掲載情報は取材日時点(2025年6月)のものです。
記事のスポット情報
INFORMATION
飯山観音 長谷寺
「飯山観音」の名で地元の人々に親しまれている「長谷寺」。坂東三十三観音霊場の第六番礼所として知られている高野山真言宗の寺院。源頼朝公にも関係が深く、観音堂には十一面観世音菩薩が安置され、手彫りの胎内仏が納められています。安産祈願、学業成就、恋愛成就などのご利益があるとされています。
INFORMATION
魚と洋食のお店 ポワレ
厚木市飯山にある、鮮度抜群の魚介とフレンチの技が融合したランチが評判のレストランです。長年厚木で店を構えてきた佐々木さんご夫妻が、2年前にこの地で新たにオープンしました。小田原漁港に出向いて自ら仕入れる旬の魚や、新鮮野菜を使った料理は季節ごとにメニューが変わり、訪れるたびに新たな味に出会えます。ディナーは完全予約制で、ふぐやすっぽん、あんこうなど特別なコース料理も堪能できます。