厚木宿の風情が残る本厚木駅南口で出会う、こだわりのカフェレストラン

江戸時代、相模川西岸には300軒を超える旅籠や商店が軒を連ねた厚木宿(あつぎじゅく)がありました。東西南北に繋がる陸路と相模川の水運があり、多くの人々と物資が往来し小江戸とも呼ばれていました。そんな旧宿場町の風情を残す本厚木駅南口周辺で評判のお店をご紹介します。レシピ本を多く出版する料理研究家の女性が営む「ストウブビストロ はるひごはん」と独自のセンスと丁寧な仕事を感じる料理とスイーツに定評がある「nil cafe」です。市内はもちろん、遠方からもお客さまが訪れる人気店です。

料理研究家のヘルシーなストウブ料理を体験できる「ストウブビストロ はるひごはん」

小田急線で西へ。厚木駅のホームを離れてすぐの相模川を渡ると、大山の山容が間近に迫り、非日常感が高まってくるから不思議です。この川岸から望む富士山や大山は、浮世絵にもたくさん描かれてきた名所です。そんな歴史ある相模川周辺を散策しながら、美味しいご飯をいただきましょう。

本厚木駅南口から「みなみ大通り」をまっすぐに進むと相模川の河川敷にでます。鮎を狙って流れの中に佇む釣り人の姿は厚木の夏の風物詩であり、今も変わらない自然の豊かさを感じます。この河川敷には、相模川ローズガーデンがあり、春から初夏にかけて55種、1,300本ものバラの木が美しい花を咲かせます。毎年5月中旬に「相模川ローズガーデンフェスティバル」が開催され、多くの人で賑わいます。

その「みなみ大通り」沿いにあるのが、「ストウブビストロ はるひごはん」です。本厚木駅南口から歩いて6分ほど。グレーの外壁に、ステンドグラスの小窓やアンティークのドアが設えられた洒落た雰囲気のファサード(外観)です。店名の通り、フランス生まれの高級鋳物ホウロウ鍋「ストウブ」を使った料理を提供する専門店です。

店内は、明るい白壁に、アンティーク調のテーブルや椅子が並び、落ち着いた雰囲気の空間が広がっています。そして至る所に、洒落た色合いの小さなストウブが飾られています。店内からはキッチンの様子もよく見え、大小の形の異なるストウブで実際に調理している様子も垣間見ることができます。

メニューは、地元厚木市や近隣の野菜を多く使うデリプレートが基本となっています。この日は、きのこのマリネがたっぷりのった鶏ムネ肉のハンバーグ、鯖のトマト煮、オムレツ、ひよこ豆入りのポテトサラダ(カレー味)、自家製ドレッシングが添えられた野菜のサラダという5種のお惣菜に、雑穀や黒米を合わせた炊いたごはんがワンプレートに盛り付けられて提供されます。生野菜以外は、すべてストウブで調理しているというから驚きます。

このデリプレートを単品でいただくこともできますが、「鶏の無水煮込み」もしくは「ミネストローネ」を組み合わせたセットが人気とのこと。せっかくなら、ストウブ料理の代名詞でもある「無水調理」の味わいをじっくり体験できるメニューを、一緒にいただきましょう。

実際には大きなストウブで調理しているという「鶏の無水煮込み」は、直径10センチほどの可愛らしいココット型のストウブで提供されます。蓋を開けた瞬間に、湯気と美味しい香りが一緒に立ち上がります。

「ストウブでの調理は、基本的に水は加えません。この煮込みは、鶏肉と玉ねぎなどの野菜やきのこに、調味料のお塩を加えるだけ。浸透圧で、素材から旨味の濃いスープがたっぷりでてきます」と、店主の大橋さん。簡単にほぐれるお肉と、口溶けするほどの玉ねぎ。熱々のスープと一緒に口に運ぶと、濃厚なのに、どこかホッとする味わいが広がります。ほんのりと効いたショウガも、寒い季節には身体を温めてくれそうです。「重い蓋が、素材のもつ水分を逃さず、鍋の中で水分を循環させながら調理することができます。素材の旨味をしっかりと引き出してくれるので、塩分や油も抑えられ、健康的な料理が作れます。調理時間も短縮できるんです」と、信頼する相棒を見るように、大橋さんが続けます。

セロリ、ニンジン、ジャガイモ、さらにはかぼちゃなど季節の野菜がたっぷり入った真っ赤なミネストローネも、もちろんストウブで調理されたもの。塩だけで味付けしたとは思えない、トマトの濃厚な旨味を感じる満足度が高い一品です。

食後のデザートに人気の「豆乳プリン」は、ストウブで炊いた小豆がトッピングされています。絶妙な食感の豆乳プリンの優しい甘さに、小豆餡がよく合います。時期によっては、餡子ではなく苺などで作った手作りのコンフィチュールになることもあるそうです。

店主の大橋由香さんは、調理学校で学び、フレンチなど飲食店での調理やフードコーディネーターのお仕事も経験された経歴の持ち主です。ご結婚後、食卓に友人らを招く際に、簡単で見栄えがする料理を作りたいと考えていた時に、偶然ストウブを知り、使い始めたと言います。

家庭でストウブを使って調理を続ける中で、煮込むだけではなく、焼き、蒸し、揚げ…と、どんな調理も器用にこなすストウブの、道具としての実力の高さに惚れこみ、なんと2014年にストウブ料理を提供するカフェを開業。その後も、ストウブを使ったレシピや調理法をブログで発信し続け、大人気に。初のレシピ本「はじめてのストウブ無水調理」を2017年に出版し、以降現在まで17冊ものストウブ関連のレシピ本を出版しています。

その後、お店は2019年1月に現在の場所へ移転し、リニューアルオープンを果たしますが、翌年からコロナ禍に。お店の営業を縮小しつつ、2011年から主宰していたストウブを使う料理教室も、オンラインでの運営に切り替えます。多い時にはリアルタイム視聴者が700名を超えるほどになったそうで人気の高さが伺えます。さらにYouTubeでも「ずぼら料理教室」という名称でチャンネルを開設、鋳物ホウロウ鍋の選び方からレシピを定期的に発信し、ますます活躍の場を広げています。今後は、休止していたリアルの料理教室も少しずつ再開する予定もあるそうで、楽しみですね。

そんな多忙を極めるような大橋さんながら、食とは畑違いの新しい展開として、23年に会員制パーソナルジム「はるひボディプラス」をスタート。店内の階段をのぼるとジムがあり、ピラティスやウエイトトレーニングのマシンが並んでいます。年齢を重ねて実感したという運動や身体のケアの大切さ。そして長年大切にしてきた食を通じた健康づくりの観点から、運動のみならず、食事管理を組み合わせた独自のプログラムを提供。会員さんの健康づくりに貢献しているのだそう。専門のインストラクターによる指導を受けながら、ほどよく汗を流し、運動後にランチを楽しむ方やテイクアウトする会員さんも多いのだそう。トレーニングだけでなく、食事からアプローチする大橋さんの取り組みは、多忙な女性を中心に、支持を集めているそうです。

大橋さんがストウブと出会って15年。「外食をもっとヘルシーに」というコンセプトを掲げ、ストウブを使った料理をお店で提供し続け10年が過ぎました。大橋さんの活躍の場は、店舗以外へも大きく拡がり続けていますが、その原点でもある、食べる人想いの優しい味、フランス生まれの鋳物ホウロウ鍋で調理された手作り料理を味わいに出かけてみませんか。営業は、基本ランチタイムのみとなっています。テイクアウトメニューも充実していますので、相模川周辺でのピクニックランチのお伴にもぴったりです。(テイクアウトは、事前予約でご利用ください。)

※掲載情報は取材日時点(2025年10月)のものです。

INFORMATION

ストウブビストロ はるひごはん

本厚木駅南口近くの「ストウブビストロ はるひごはん」は、店主の大橋由香さんが営む高級鋳物鍋「ストウブ」を使った料理の専門店です。無水調理などで素材の旨味を引き出した、地元野菜も豊富なデリプレートや人気の「鶏の無水煮込み」など、健康的なメニューを提供。大橋さんはストウブのレシピ本を多数出版し、料理教室やYouTube、さらにはパーソナルジムも展開するなど多方面で活躍しています。食べる人想いのストウブ料理を味わえるお店です。


ジャンルにとらわれない料理と手づくりケーキが人気のカフェ「nil cafe(ニルカフェ)」

本厚木駅南口から歩いて4分ほど。旭町どんぐり公園近くの住宅地にある「nil cafe(ニルカフェ)」は、東南アジアベースの料理から旬の素材を使ったパスタやサンドイッチまで、ジャンルを問わない料理と手づくりデザートが人気のカフェです。ランチタイムはもちろん、ティータイムもドリンクと種類豊富なデザートを楽しむお客さまでいっぱいのお店です。

落ち着いたアースカラーでまとめられた店内は、木目調のテーブルと椅子がゆったりと配置され、観葉植物やオーナー手づくりのスワッグが素敵に飾られています。
大きなガラス窓に面したテーブル席は光にあふれ、外に見える公園の緑にも癒されます。駅の近くとは思えない、静かでほっとする空間です。

お店は昼から夜までの「通し営業」で、ランチタイム(11:30~15:00)はメイン料理とのセットメニュー、ティータイム(15:00~17:00)はデザートとドリンク、ディナータイム(17:30~20:00)はアラカルト料理というメニューになっています。

ランチは、メイン料理との組み合わせで、ドリンクセット、サラダセット(メイン、サラダ)、デザートセット(メイン、デザート)、フルセット(メイン、サラダ、デザート)の4つのセットメニューが用意されています。メイン料理は日替わり8種類の中から選ぶことができ、すべてドリンクが付いています。

セットのサラダ(写真左)は、日替わりで、直径10センチほどのボウルにたっぷりのボリュームです。この日は、ラタトゥイユ、レンズ豆と押し麦の煮込み、白茄子のマリネ、キャロットラペ、プチトマト、ゆで卵、きのこ、緑野菜など。具沢山ですが、マリネの酸味、ラタトゥイユの野菜の甘さなど、素材や味のバランスがよく、ヘルシーで食べやすいサラダです。

nil cafeのパスタは、すべてイタリア・マルケ州のカンポフィローネ社のもの。無農薬栽培の小麦を使ったプレミアムなパスタで、小麦本来の風味とデュラムセモリナ粉ならではのコシの強さを楽しめます。
メイン料理でいただいた「栗と黒豚とキノコのパスタ」(写真右)は、鹿児島産黒豚のバラ肉と栗とキノコのソースにチーズがトッピングされ、濃厚な旨味が太めのショートパスタ(トルティリオーニ)にしっかりとからんで絶品です。ランチのパスタは、麺の種類やソースが毎日変わるので、それを楽しみに通うお客さまも多いそうです。

メイン料理には、タイやベトナムの料理をベースにしたメニューもあり、中でも人気なのが「ガパオ」です。鹿児島県産黒豚、ピーマン、茄子、玉ねぎ、マッシュルームをオイスターソースで炒めてあり、ナンプラーやホーリーバジルを使う本場タイ風とは異なる、オリジナルな美味しさのガパオです。辛さは控えめなので、お子さまでも食べやすい一品です。お好みで、別添えのピッキーヌ(タイ産青唐辛子)ペーストを加えるとグッと味が引き締まり、大人風味に。ライスは玄米か五分づき米かを選ぶことができます。

メイン料理は他に、トムヤムクン風味のベジカレーや、グリーンカレー、バインミー、ブッダボウル(穀物、野菜、フルーツ、ナッツ等の盛り合わせ丼)など東南アジア的なメニューがラインアップされています。

常時10種類ほど用意されているケーキやパフェなどのデザートもすべて素材にこだわり、丁寧に手づくりされています。
英国発祥の「バノフィーパイ」をアレンジした「トフィーパイ」は、サクサクのタルト生地にトフィー(キャラメルクリーム)を敷き、その上に季節のフルーツやチョコレートを重ね、ふんわりした生クリームをのせて仕上げたもので、nil cafeオリジナルのケーキ。この日いただいた「パッション チョコレート トフィーパイ」は自家製パッションフルーツのジャムとチョコガナッシュがサンドされており、トロピカルな酸味のジャムと濃厚なチョコのマリアージュが素晴らしい一品でした。

ドリンクは、本格エスプレッソやエスプレッソベースのコーヒー(カプチーノ、アメリカーノ等)、アイスコーヒー、紅茶、オーガニックハーブティーのほか、各種ソフトドリンク、グラスワインやビールも揃っています。エスプレッソで使う豆は「やまのべ焙煎所」(奈良県天理市)のスペシャルティで、しっかりしたボディと甘みが特徴です。

店奥のショーケースにずらりと並ぶ手づくりケーキ。「トフィーパイ」の他、スパイシーでナッツやドライフルーツがたっぷり入った「オーガニックキャロットケーキ」(写真右)、熱々ふわふわの「フレンチトーストパンケーキ」などが特に人気だそうです。

オーナーシェフの岡野さんは地元、厚木市のご出身です。菓子職人を目指して製菓学校に通われていた時に、恵比寿のフレンチレストランでアルバイトをしたことがきっかけとなり、料理の道へ進むことになります。
エスニック料理店、イタリアンカフェで働きながら料理を学び、修業を積んで、2000年12月に現在の場所にnil cafeをオープンしました。

店名の由来は英語の「nil」(ゼロ、無)から。店のオープン時に「すべてゼロの状態から出発し、自分たちでつくり上げた」ことからのネーミングで、「店名自体にあまり(具体的な)意味を持たせたくない」という意図もあったそうです。
「ジャンルを固定せず、自分たちが美味しいと思ったモノをお客さまに食べてほしい」という想いが込められた「無国籍料理」は(当時の厚木では)珍しかったため、オープン早々からたくさんのお客さまが詰めかけ、たちまち人気店になりました。

メニューは、開業時から大きく変更され、日々ブラッシュアップされているとのことですが、食材へのこだわりは25年間変わらないと、胸を張ります。つねに素材の産地と旬の時期を意識して仕入れ、無理のない範囲で減農薬やオーガニックのものを選び、そして、添加物に頼らず丁寧に手づくりすることを心掛けているそうです。
お店は、岡野さんが修行時代に共に働くスタッフとして出会った夫人(デザート、接客担当)と、夫人の弟さん(調理、接客サポート)の3人で切り盛りしています。

「20年以上営業していると、学生だったお客さまが、今はご家族連れで来店されるということもあり、時の積み重ねを感じます。お客さまに店を育てていただいている感覚があります」と語る岡野さん。地元のお客さまはもちろん、遠方から「わざわざ食べに来ていただいた」方とのご縁も大切に、オリジナリティのある美味しい料理を今日もつくり続けています。

七沢や白山方面へのハイキング後のランチやディナーに、ぜひお立ち寄りください。

※掲載情報は取材日時点(2025年10月)のものです。

INFORMATION

nil cafe(ニルカフェ)

旬の素材を使ったパスタから東南アジアベースの料理まで、ジャンルを問わない料理とデザートが人気のカフェです。本厚木駅南口から歩いて4分という立地で、11時半から夜まで通し営業のお店です。公園を借景にした雰囲気の良い店内で寛ぎながら、食事や喫茶を楽しむことができます。季節のフルーツやチョコを使った「トフィーパイ」などの手づくりケーキもおすすめです。