伊勢原に根付く、個性豊かなパン屋さん

地元に根付き長く営業を続ける伊勢原市の人気のパン店さんを紹介します。伊勢原駅が最寄りの「ムール ア・ラ ムール」と愛甲石田駅が最寄りの「パン酵母シーバー」です。どちらも素材にこだわって焼き上げるバラエティー豊かなパンが支持される地域の名店です。
神奈川県産小麦を自社製粉。香り豊かに焼き上げたパンが自慢の「ムール ア・ラ ムール」


神奈川県産の小麦を自社製粉して焼き上げるパンが人気で、伝説的ベーカリーとして語り継がれるのが今はなき「ブノワトン」(2010年閉店)です。同店で修行し、オーナーシェフの弟子であった本杉さんが同じ場所にオープンしたのが「ムール ア・ラ ムール」で、言わば「ブノワトン」のDNAを継承するお店です。パン作りとともに製粉技術も習得した本杉さんの作るパンは、国産小麦本来の香りと味わいが評判で、行列ができる人気店となっています。
国道246号線の板戸交差点近くのお店は、内装や什器が木目調でまとめられ、暖色系の照明がスタイリッシュです。カウンターや陳列棚には食事系のトーストやバゲット、惣菜系のフォカッチャ、菓子パンなどが焼き上がった順に並んでいきます。

毎日60種ほど焼き上げるというパンには、近隣の契約農家で栽培された小麦を使用し、それを平塚の自社製粉工場「ミルパワージャパン」で製粉してブレンドした「湘南小麦」を使っているそうです。焼くパンの生地に合わせて他の国産小麦も配合して使われているのだとか。「湘南小麦は香りや味が濃いんです。旨味もたっぷりですが、パンは日常的に食べるものなので、ちょうど良いバランスになるように小麦の配合を工夫しています」と本杉シェフ。
写真にある、角型食パン、石臼ショートバゲット、ブリオッシュクリームパン、ブリオッシュあんぱん、焼きカレーパンはお店の代表的な5種類とのこと。角型食パンはサクサクした食感が特徴で、酒種酵母を使った石臼ショートバゲットは粉の旨味と香ばしさをストレートに味わえます。ブリオッシュ生地でつくるスイーツ系パンや焼きカレーパンも人気で、これを目当てにいらっしゃるお客さまも多いそうです。


店名の「ムール ア・ラ ムール」はフランス語の「石臼(Meule)で挽く(Moulus)」という意味で、石臼で製粉する自社工場に由来しています。
低温で貯蔵された玄麦は精麦され、小麦の香りと味わいを引き出すために石臼で1分間に9~12回転という低速で挽かれます。小麦粉になるのは1時間でわずか2kgのみ!ゆっくりと丁寧に製粉され完成する「湘南小麦」は雑味がなく、小麦本来の味わいがあるのが特徴です。自店はもちろんのこと、県内や都内のベーカリーをはじめ、レストランや菓子店など40店舗以上でも使われているそうです。

メインの陳列棚には角食パンや、レーズンパン、プレーンベーグル、プチパンなど食事系のパンが並びます。パンは焼きたてを提供できるよう、朝7時から14時まで断続的に焼き上げ、奥の厨房から次々に運ばれてきます。お好みのパンを予約、取り置きされるお客さまも多いそうです。


惣菜系のパンでは野菜やソーセージがトッピングされたフォカッチャが人気です。
コロンとした「焼きカレーパン」にはプルドポーク、じゃがいも、人参、赤インゲン豆等の野菜がたっぷりのスパイシーなカレーがフィリングされており、小ぶりながらしっかりした旨味を堪能できます。


「ブリオッシュあんぱん」は、伊勢原の養鶏場の卵と南箱根産の厳選バターをたっぷりと使用したブリオッシュ生地で、バターと軽い塩味が甘さ控えめの粒あんによく合います。また、「ブリオッシュクリームパン」のカスタードクリームには地元酪農家が生産する生乳だけの牛乳「いせはら地ミルク」と新鮮な卵が使われており、素晴らしいコクと香りを楽しめます。

オーナーシェフの本杉さんは平塚市のご出身。お母様の影響で幼少時より料理に親しみ、中学生の頃の夢はパン屋さんになることだったとか。農業高校の食品学科から製パンの専門学校に進み、食品や発酵などの基礎知識を学んでいた時に出会ったのが、「ブノワトン」でした。そのパンに衝撃を受け、「修業するならこの店しかない」と思ったそうです。
卒業後、ホテルのベーカリーでパン製造を学び、2004年に念願の「ブノワトン」に就職。オーナーの高橋シェフの薫陶を受け、本杉さんはパン作りの技術をどん欲に吸収していきます。また、高橋シェフが主導する「湘南小麦プロジェクト」にも参加。地産地消の観点から、地域の農家とともに小麦を育て、国産小麦の価値の普及活動を始めます。さらに、製粉工場ミルパワージャパンの製造責任者にも就任し、小麦の仕入れ、管理から製粉まで携わることになります。
「ブノワトン」はオーナー様のご逝去により、2010年3月に惜しまれながら閉店。翌4月に本杉さんはパン職人でパティシエの妻、夏子さんとともに自らの店「ムール ア・ラ ムール」をオープンしました。
「小麦を挽いてパンを焼き、食べてから挽き方を調整する。パン職人が製粉するから粉ごとの違いが分かる」と語る本杉さん。「創麦師(そうばくし)」という肩書に「小麦のプロ」としての情熱とプライドを感じます。
大山や比々多神社へのお詣りやハイキングで伊勢原市にお出かけの際には、「ムール ア・ラ ムール」に立ち寄り、「湘南小麦」の焼きたてパンを味わってみてはいかがでしょうか?
※掲載情報は取材日時点(2025年3月)のものです。
INFORMATION
ムール ア・ラ ムール
自社で製粉した「湘南小麦」を使って焼き上げるパンが評判のベーカリー。トーストやバゲットなどの食事パン、具だくさんの惣菜がトッピングされたフォカッチャ、あんぱんやクリームパンなどのスイーツ系まで、60種ほどの焼きたてのパンが並びます。
酵母が引き出す国産小麦の旨味。約100種のパンやお菓子が並ぶ「パン酵母シーバー」


新宿駅から約50分。車窓から見える大山の稜線に見惚れているうちに、愛甲石田駅に到着します。駅前を通る国道246号線を歩き、「石田」交差点を左折、小田急線と並行するバス通りを進みましょう。道祖神や道標など往時の面影を残すこの通り、実は江戸から大山へ通じる大山街道、矢倉沢往還であり、古くは万葉集にも記された由緒ある古道です。駅から歩いて19分ほど、「小金塚」バス停のすぐ先にあるのが、開店から33年を迎えた「パン酵母シーバー」。ピンク色の外壁と三角屋根が目印です。
毎朝7時から焼き立てのパンを販売しています。朝7時~10時はモーニング、11時30分~14時まではランチ営業としてパン以外の飲食メニューも提供し、テラス席でいただくこともできます。


毎朝3時からパンを焼き始めるというオーナーの椎葉さんは、この道50年超というベテランのパン焼き職人です。1992年に愛甲石田駅近くに開店し、より広い製造スペースと長年憧れていたログハウス建築の夢を実現させるべく、2009年に、伊勢原市の現在の場所へ移転し、リニューアルオープンしました。
各種パンをはじめ、クッキーやパウンドケーキなどの焼き菓子、プリンなどのデザート類も合わせると毎日おおよそ100種類の商品が並ぶそう。パンは、11時頃にかけて焼き上がり、順に陳列されてゆきます。

ロングセラーで人気のパンを教えていただきました。左から時計回りに、大粒かのこがたっぷり入ったその名も「大納言ブレッド」、自家製の無添加ソーセージ入りの「ウインナーロール」、ほんのり甘く仕上げた黄色い生地が特徴の「パンプキン」、大山参道にある湧水工房の絹豆腐を使った「大山豆腐リングドーナッツ」、こちらも大山豆腐が入った「大山豆腐メロンパン」です。
大納言ブレッドは、まずずっしりとした重さに驚きます。きめ細かく密度の濃い生地にたっぷり入った甘い大納言のバランスが絶妙で、和菓子のような上品な味わい。食事だけでなく、おやつにもぴったりです。自家製のソーセージが入ったウインナーロールは、塩味も柔らかで優しい味が特徴です。大山豆腐を使ったメロンパンは、ソフトなのにもちもち食感で甘さは控えめ。お子さまだけでなく大人にも人気というのも頷けます。


店名に酵母とある通り、パン作りに欠かせない酵母を活かしたパン作りがシーバーの特徴です。自家培養の天然酵母とイタリア産の天然酵母を使用。発酵過程で小麦が分解され、生成されたアミノ酸が旨味に変化することで、味わい深いパンの生地になるのだとか。例えば、サクサク食感が支持されるクロワッサンも、自家培養の天然酵母で発酵させた生地にたっぷりのバターを入れて焼きあげているのだそう。


開店から変わらないもう一つのこだわりは、国産小麦のみを使っていること。北海道産を中心に、全粒粉などふすまの多い粉も全て国産の小麦とのこと。シンプルなバターロールは、バターの風味に負けない国産小麦の旨味を感じさせてくれる一品です。

焼き立ての食パンを使った「ハムのサンドイッチ」も評判です。自家製のハムは肉厚ながらも柔らかい食感が絶妙です。他にも卵サンド、ツナ・ポテトサンド、野菜サンドとあるそうですが、いずれも具材の野菜や卵などの多くは伊勢原など近隣産を使っているとのこと。具材として使用するハムやソーセージ、ベーコンも全て保存料などの食品添加物を加えず自家製というから驚きです。


お店の入口の両側にテラス席があり、朝7時から17時まで利用できる飲食スペースとなっています。「焼き立てのパンをすぐに味わうことができる場所を設けたいというのも、移転の理由の一つでした」と、椎葉さん。ランチ(11:30-14:00)限定で提供するピザやスパゲティーなどの飲食メニューを目当てに来店される常連のお客さまも多いのだそう。週末などは満席となることも多いそうで、お電話での席の予約にも応じているとのこと。

シーバーは、とりわけ食パンの種類が豊富で、すべて半斤から求めることができ、希望の厚さでスライスもしてもらえます。
角型は、蜂蜜入りでほのかに甘い「246ブレッド」をはじめ「BMブレッド」や「シナモンブレッド」などがあり、山型はベーシックな「天然酵母食パン」、玄米粉使用の「玄米ブレッド」、フランスパン生地で作る「ハードトースト」など、食パンだけで日々10程度焼きあげているというから驚きます。(種類は日によって変わります)
シンプルゆえ、お店の特徴が表れやすい食パンですが、まずはベーシックな「246ブレッド」や「BMブレッド」を何も付けずに食べてみることをお薦めします。トーストすれば、もっちりとした生地とカリっとした耳の食感のコントラストが絶妙で、かすかな甘さの後に広がる小麦の旨味を堪能することができます。


18歳から8年間勤めた製パン企業を辞し、イタリア料理など飲食店での調理を経験した後に独立した椎葉さん。川崎市にパン店をオープン後、パン作りに欠かせない酵母と発酵に特化した職人向けの教育事業もスタート。その取引先だったお店を継承することとなり、愛甲石田駅近くに、パン酵母シーバーを開店したのが、この地に根付くきっかけとなりました。
豊富な経験に裏打ちされた酵母の扱いが真骨頂という椎葉さん。シーバーのパンは、毎日食べても飽きのこない普遍的な味わいが特徴です。テラス席でいただくのもよし、お土産に持ち帰るのもよし。伊勢原市、大山周辺の散策にお出かけの際には、「パン酵母シーバー」へぜひお立ち寄りください。沢山の種類の中から、じっくり選ぶなら11時前後の来店がお薦めです。
※掲載情報は取材日時点(2025年3月)のものです。
INFORMATION
パン酵母シーバー
開店から33年を迎えた「パン酵母シーバー」は、自家培養の天然酵母とイタリア産の天然酵母を使いわけ、国産小麦のパンを作り続けています。10種類ほどの食パンをはじめ、総菜パンや菓子パン、焼菓子なども含めると店内には100種類のも商品が並びます。朝7時~10時はモーニング、11時30分~14時まではランチ営業としてパン以外の飲食メニューも提供。パン類は午後には品薄となる日も多いため、お昼前の来店がお薦めです。