レトロな街を巡る 大山参道を歩いて楽しむ老舗の味

大山阿夫利神社下社や大山登山への玄関口となる大山ケーブルカーやこま参道に至るまでのエリアは、大山詣りに訪れた人々を出迎えるお店や宿坊が並ぶ参道として栄えました。旧参道やとうふ坂などの通り沿いには、往時の名残を感じる石柱型の玉垣がずらりと並んでいます。今回は、神奈川県伊勢原市にある大山名物の豆腐を使った料理が人気の「大山豆腐料理 夢心亭(むしんてい)」と大山参道の老舗和菓子店「大山まん志゙う本舗良辨(ろうべん)」をご紹介します。レトロな風情漂う、大山参道を気軽に散策できるプランです。


大山名物の豆腐を気軽に楽しめる和食店「大山豆腐料理 夢心亭」

鈴川沿いの宿坊だった古民家をリノベーションし、1996年から営業される「大山豆腐料理 夢心亭」は、名物の大山豆腐料理や会席料理を提供しています。現在は2代目の相原和教さんが、修行先の老舗料亭で積んだ経験を活かし、豆腐料理を次世代に繋げるための創意工夫をほどこしながら、お客様に満足される美味しさを提供しています。

奥の大きな窓からは夏は新緑、秋は紅葉の景色を眺めることができます。目の前を鈴川が流れており、せせらぎが聞こえてきます。モダンにリノベーションされた和の落ち着いた空間で、ゆったりと食事や会話を楽しむことができます。

大山ゆば丼セット
旨味の濃い出汁に銘柄鶏肉「あふりしゃも」と自家製ゆばをたっぷりと入れた卵とじ。熱々の具と汁をすくい八穀米に乗せて、丼にしていただきましょう。肉厚のあふりしゃもと一緒にいただくと不思議と湯葉本来の香りや味が立ってきます。小鉢の自家製絹ごし豆腐(冷奴)には、木の芽味噌がのり、山椒の香りも楽しめます。

おおやま湯葉ラーメンセット
味噌ラーメンのような色合いですが「鶏白湯スープの塩ラーメンの部類に入ります」とのこと。子どもから大人まで大好きなラーメンをメニュー化するため、数年間の試行錯誤を繰り返して生まれた新メニュー。鶏の旨味を極限まで抽出したパンチのあるスープに湘南小麦を使った少し茶色のストレート麺が合います。「あふりしゃも」のチャーシューや煮卵、そして生湯葉などの具材が、旨味の濃いスープと麺を一層引き立てます。こちらも大山豆腐の冷奴付。温かいラーメンのほかに、「大山つけ麺(こちらは魚介鶏白湯スープ)」も通年でいただくことができます。

「一膳で大山の名物である豆腐や湯葉を体験いただけるように、ラーメンとつけ麺を始めました。」と語るのは、神奈川県内の名だたる老舗料亭で修行を積み、和食のいろはをしっかりと学んだ和教さん。健康を考えてラーメンもつけ麺も無添加とのことですが、素材本来の旨味を引き出すための丁寧な仕事、時間をかけたスープ作りなど見えない部分に労を惜しまない姿勢が、味にしっかりと出ているようです。

ラーメンやつけ麺にも必ずたっぷりの生湯葉がのり、自家製の豆腐の小鉢も付いて、しっかりと大山名物を堪能することができます。豆腐料理を前面に出さずとも、名物の豆腐を子どもから大人まで味わってほしいという想いが現れた一膳。気軽にいただけるのが嬉しいですね。

なお、ランチメニューは予約不要ですが、豆腐会席などのコース料理や夜の利用は要予約となります。

2階は「大山現代の美術館」として、所縁のある現代アート作家の作品や常設展を行っており、食後にゆっくりと作品鑑賞できます。展示品の入れ替えに伴う閉館期間もありますので、事前にホームページなどで確認してご来館ください。

夢心亭の付近には、宿坊が軒を連ねる旧参道や、豆腐を食べながら歩いたと言われる「とうふ坂」などもあり、ゆっくりと歩きながら、大山の自然や歴史を感じることができます。

お腹を満たした後は、大山寺を開山した良弁僧正が滝行を行ったと言われる良弁滝や、愛宕滝など付近の名所や、参道の散策を楽しみながら、江戸時代から続く老舗の和菓子店「大山まん志゙う本舗良辨」でお土産品を選びましょう。


創業150年超 手作りの優しい味の和菓子店「大山まん志゙う本舗良辨」

創業 慶応年間の老舗として150年以上の間、大山で和菓子の製造を続ける菓舗「大山まん志゙う本舗良辨(ろうべん)」。もともとは、良弁滝にほど近い場所にありましたが、関東大震災による山津波の被害を受け、現在地へ移転しお店を再興。大山詣りに訪れた方々が帰路につく前にお土産を求めた名残から、現在も朝7時から営業されています。

ふっくらと蒸しあがった薄皮の「大山まん志゙う」

皮だけでなく餡も自家製の「大山まん志゙う 」 は昭和20年代頃から主力商品となり、現在も世代を問わず人気の銘品です。程よい大きさのおまんじゅうは、甘さもほどよい加減。一つ、二つとペロリと食べられてしまう美味しさです。

お土産品として購入される観光の方のみならず、近隣の方々がご自宅用や進物に求められることも多いそう。予約していた地元のお客さんが、出来上がったばかりの「大山まん志゙う」を受け取りに来店されます。

現在も朝7時の開店に合わせて、早朝から仕込み、製造を開始。営業中も次々に来店されるお客様の対応をしつつ、製造が続きます。おまんじゅうは、一つ一つ薄皮に餡を包み、形を整えて蒸し上げます。生地だけでなく、餡の仕込みもあり、一つのおまんじゅうが完成するまでには多くの手間と時間を要します。作ることができる数が限られているため、曜日を問わず、購入を希望される方は、事前予約をされるほうが確実です。

出来上がったばかりの「大山まん志゙う」が店頭に並びます。12個入り、20個入りの箱入りのほか、1個単位でのお求めもできます。

日持ちする「大山羊羹」は、創業当時からある商品で「当時からほとんどレシピも変わっていないそうです」と語るのは、6代目の理子さん。シンプルな原料で作られた優しい甘さの大山羊羹は大山阿夫利神社下社にある「茶寮 石尊」でもお召し上がりいただくことができます。

大山の往時を知ることができる貴重な写真(店頭で拝見できます)。良弁滝開山堂へ渡る橋のたもとにあった銅鳥居付近の様子。どれほどの方々がワクワクした想いでこの路を通ったのでしょうか。昔はバスが通るようになるまで、このような階段の参道だったそうです。


時代も社会も変わり続ける中、現在も老舗の暖簾を守る店主ご一家。店名の由来でもある大山寺開山の良弁さんは東大寺初代別当であり、2023年に没後1250年を迎えました。店内にある看板の書は第212世 東大寺別当、故筒井寛秀さんによるもの。時を超え、今なお良弁さんのご縁が続いていらっしゃいます。

「大山ケーブル」バス停からも徒歩7分ほど。最寄りの「良弁滝」バス停や大山名物 豆腐料理のお店「夢心亭」からも徒歩約1分です。参道付近の散策や大山へのハイキング・登山にお越しの際には、美味しい和菓子をお求めに、ぜひお立ち寄りください。


この記事のスポット情報

今回は、小田急線、神奈中バスでアクセスできる大山を気軽に散策するプランのご紹介でした。大山参道を歩きながら大山名物の豆腐料理や老舗和菓子店でのショッピングをお楽しみいただけます。
伊勢原駅までは新宿駅から約55分で到着します。

大山詣りの頃から続く宿坊や名物の豆腐料理店なども多いレトロ感漂う大山へぜひお出かけください。

※掲載情報は取材日時点(2023年9月)のものです。

INFORMATION

大山豆腐料理 夢心亭

趣のある風格とモダンテイストが融合したお店は、元々宿坊だった建物を現代アート作家監修のもと改築。大山名物の豆腐料理をメインに地場の食材をふんだんに使ったさまざまな創作料理を提供しています。

INFORMATION

大山まん志゙う本舗良辨

大山で江戸時代から150年以上続く老舗和菓子店。添加物を使わず、こだわりの原材料でひとつひとつ手作りしているお菓子は、観光客はもちろん地元住民からも長く愛されています。大山を訪れるなら、ぜひとも味わいたい甘味。購入は予約がおすすめです。